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岡山家庭裁判所 昭和55年(少)569号 決定 1980年3月24日

少年 K・O(昭三七・四・一三生)

主文

少年を満二〇歳に達するまで中等少年院に戻して収容する。

道路交通法違反、覚せい剤取締法違反各保護事件につき、少年を保護処分に付さない。

理由

第一戻し収容申請の理由

中国地方更生保護委員会から、少年を少年院に戻して収容すべき旨の決定の申請がなされ、その理由は、別紙「申請の理由」記載のとおりであるからこれを引用する。

第二戻し収容を相当と認めた理由

1  少年、保護者の当審判廷における陳述及び本件関係記録によれば次の事実が認められる。

(1)  少年は、中学校三年生に在学中の昭和五三年一月二四日、恐喝、窃盗等保護事件により、在宅の試験観察を経たうえで岡山保護観察所の保護観察に付され、その後高校受験に失敗して工員として働きながら定時制高校へ通うようになつたが長続きせず、同年九月から定職に就こうとせず、父母との折り合いが悪く粗暴な振舞に出て父母から金員をせしめて覚せい剤等に費消し、不良交友、暴力団関係者との関係が深くなり、保護観察による指導にまつたく従おうとしなかつたため、同年一一月八日、岡山家庭裁判所において虞犯保護事件により、中等少年院送致の決定を受け、あわせて比較的短期(六か月以上八か月以内)の処遇が相当との勧告がなされ、広島少年院に収容された。

少年は、昭和五四年一一月八日、中国地方更生保護委員会において同少年院からの仮退院を許され、父母の居住地に帰住し、岡山保護観察所の保護観察を受け、同委員会から法定遵守事項の他、特別遵守事項として(イ)シンナー、覚せい剤の類には絶対に手を出さないこと(ロ)不良交友は厳に慎しむこと(ハ)堅実な職業について辛抱強くまじめに働くこと、以上を定められた。

(2)  しかしながら、少年は、就職の決まつていた鮮魚店には早朝からの勤務と知りこれを嫌つて働こうとせず、約一週間ぐらい友人と遊んだりして過ごし、青果御商の店員になつたが約一週間で勝手にやめてしまい、夜遊びをして金遣いが荒く、その頃友人が覚せい剤を使用しているのを見て安易な考えから覚せい剤を注射し始め、それ以後連日注射するようになり、いつそう生活が乱れた。そして、少年は、一二月一日に勝手に父名儀で原動機付自転車を購入し、一二月八日警察に検挙されてやめたものの、それまで無免許で運転を続け、一二月初め頃、親戚の鮮魚店で、昭和五五年一月初め頃、清掃作業員として数日間働いたが、覚せい剤の影響もあつてまじめに勤務できず解雇され、父母や祖母に理由をこじつけて金員を要求し、応じなければ家に火をつけるなどと脅し、友人達からも無心しては無理矢理金員を入手し覚せい剤購入費、遊興費に充て、一月中旬道路舗装工として働くようになつたが一〇日位しか続かず、一月二八日から外泊を続け、友人宅、ホテルなどを転々し、覚せい剤に耽溺し、一日に一〇回も注射する程になり、家には金員を要求するために帰るぐらいで居所を明かさず、父母、保護観察所の監督に従わなかつた。少年は、二月一九日友人とともに大阪へ赴いたが、結局、大阪府貝塚市に居住する叔母に金員を無心し、覚せい剤を注射し続け、二月二四日帰岡したところを引致状により岡山保護観察所まで引致され、本件申請を受けるに至つた。

以上の少年の行為は、犯罪者予防更生法三四条二項一号ないし三号の保護観察中の一般遵守事項、前記(イ)ないし(ハ)の特別遵守事項に違反することが明らかである。

2  少年は、広島少年院に在院中、自己中心性、不良親和性が強く自ら意欲をもつて教育を受けるまでに長期間を要したが、処遇の後期には好転し、父との折り合いが悪かつたこと、そのため我侭な振舞が多かつたことを反省し、暴力団との関係を断ち、薬物依存をやめ、父母のもとで生活しながら将来店を持つことを目標に店員としてまじめに働きたいと考えていたが、仮退院後は、暴力団へ復帰しようとはしなかつたものの、自己中心的で顕示性が強く、自律心に乏しく些細なことで投やりになる性格の弱さは変わつておらず、父母への甘え、職業生活についての安易な考えから、規律正しい生活を送れず、以前の不良交友関係を復活させ、いつたん覚せい剤に手をつけるや自己を統制できないまま急激にこれにのめり込み、少年を指導しようとする父母、保護観察所とのあつれきから、いつそう覚せい剤に心理的に依存し、乱脈な生活を送るようになつていた。また、少年の父母は、少年が仕事に定着できるよう熱心に働きかけたが、覚せい剤の使用を始めた少年に厳しく対処することができず、覚せい剤に耽溺する少年の粗暴な振舞を恐れて仕方なく金員を渡し、更生を願う気持は強いものの少年を指導できず、在宅での指導に絶望し、少年の少年院への収容を望んでいる。

以上のような少年、家庭の現状では、在宅の指導を継続して少年を職業生活に定着させ、少年の覚せい剤に強く心理的に依存した状況を改めさせることは、困難であると言うほかはなく、少年に対し、中等少年院に戻して収容したうえ、再度、生活指導を強力に行い、これまでの生活について内省を深めさせ、職業人として自立していく意欲、自信を与え、覚せい剤に依存していく弱さを克服させることが今後の少年の健全な成長のため必要な処置と考えられる。なお、少年院の処遇においては、これまで少年には父母に対し我侭が通るという甘えがあり、仮退院時から少年と父母の間に信頼関係がなく、父母には少年を指導していく確信がなかつたことが在宅での少年の指導を困難にしていたことに鑑み、少年に対し親子関係、これまでの家庭生活について十分内省を深めさせ、父母にも働きかけ親子関係の調整をはかり、父母に指導の確信を与えることもあわせて必要な処置と考えられる。

第三本件各保護事件の非行事実(適条)は、以下のとおりであるが、前認定のような戻し収容をする理由ともなつており、保護処分をする必要性は認められない。

少年は、

1  公安委員会の運転免許を受けないで、昭和五四年一二月五日午前八時四五分ごろ、岡山市○○町×丁目××番××号○○米穀店前路上において原動機付自転車を運転し(道路交通法一一八条一項一号、六四条)、

2  法定の除外事由がないのに、(一)昭和五五年二月二二日午前一〇時三〇分ごろ、大阪市○区○○○町××番地○○○モータープールにおいて、Aに対し、フエニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤粉末約〇・〇三グラムを譲り渡し(覚せい剤取締法四一条の二の一項二号、一七条三項)、(二)同月二三日午後一時ごろ、大阪市○区地下鉄○○駅近くのホテルにおいて、前同様の覚せい剤粉末約〇・〇五グラムを自己の身体に注射して使用し(同法四一条の二の一項三号、一九条)、

たものである。

第四よつて、戻し収容申請事件について犯罪者予防更生法四三条一項、少年法二四条一項三号、少年審判規則五五条、三七条一項、少年院法二条三項を、本件各保護事件について少年法二三条二項をそれぞれ適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 犬飼眞二)

別紙

(申請の理由)

本人は、昭和五三年一一月八日岡山家庭裁判所において、ぐ犯保護事件により中等少年院送致の決定を受け広島少年院に収容されたものであるが、昭和五四年九月二五日当委員会第一部の決定により同少年院を仮退院し、現に岡山保護観察所の保護観察下にあるところ、犯罪者予防更生法第四一条第二項に定める事実に基づき、昭和五五年二月二四日同保護観察所に引致され、同日同保護観察所長から戻し収容の申出があつた。

よつて、同日当委員会第一部において、戻し収容申請の審理を開始する旨の決定を行い、現在身柄を岡山少年鑑別所に留置中であるが、これを審理するに、

一 本人は、仮退院に際し、犯罪者予防更生法第三四条第二項に定める事項及び同法第三一条第三項により当委員会第一部が定めた事項の遵守を誓約したにもかかわらず

(1) 昭和五五年一月二八日家出し、以後引致されるまでの間、友人宅やホテルを転々と泊り歩いて居住すべき住居に居住せず(一般遵守事項第一号前段違反)

(2) 仮退院後短期間働いただけで、ほとんどの期間を徒食して生活し、(一般遵守事項第一号後段及び特別遵守事項第五号違反)

(3) 昭和五五年二月二三日午後一時半頃大阪市○区のホテルにおいて、覚せい剤を自己の身体に注射して使用したほか、昭和五四年一一月中旬以降覚せい剤を反復使用しており、(一般遵守事項第二号及び特別遵守事項第三号違反)

(4) 昭和五四年一一月中旬頃以降不良交友を続け、父母等に対し再三にわたり脅迫的言辞をもつて金員の交付を強要あるいは無断で金品を持ち出して費消した(一般遵守事項第二号・第三号及び特別遵守事項第四号違反)

ものであり、この事実は関係書類により明らかである。

二 次に、本人の仮退院中の行状についてみるに、仮退院当初から仕事への意欲を欠き、四回転職したがいずれもごく短期間で退職しては徒食し、不良性のある友人と交遊の上、夜遊びや無断外泊を繰り返すばかりか、両親の反対を無視して原付自転車を購入、無免許運転を反復し、更には前記のとおり覚せい剤の使用を続け、両親から受け取つた多額の金員のほとんどを覚せい剤の購入にあてる等、生活面の乱れは増大し、行状きわめて放恣となつていつた。この間担当保護司は、再三電話で保護者や本人と連絡をとりながら、前後三回にわたつて本人と接触し、父母との対話をはかつて、仕事に熱中するよう指導を行う等改善に努めたが、本人の行状は改まらず、また、主任官においても、両親に対し監督上必要な助言、指導を加えるとともに、本人を呼出し、覚せい剤の使用、家庭内暴力、不良交遊夜遊びの禁止及び仕事への定着について指導したが、本人は覚せい剤の使用を否定するばかりか、その後においても生活態度は全く改善されず、特に、昭和五五年一月二八日以降は、不良性の強い友人と遊び回つて、金員強要の目的のほかは家庭に寄りつかず、市中を俳回し、また、覚せい剤の使用も次第に耽溺の度合いを強め、心身の荒廃が危ぐされる状態に立ち至つている。

なお、両親は本人に対して規制力を持たず、現在では監督への意欲と自信を全く失つている実情にある。

以上のように、現状においては、保護観察を継続してももはやその実効は期し難いものと判断されるので、再び施設内処遇に切り替えて必要な訓練を加え、健全な生活習慣と正常な価値意識を身につけさせることが適当と認め、申請に及ぶものである。

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